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落胆した小さな背中を見守っていると、結城が振り返った。バチッと目が合ってしまう。「あっ」と驚いた表情はたちまち眉尻を下げ、バツの悪そうな表情になった。その顔を隠すように指先で眼鏡を押し上げ、市五郎へ軽く会釈する。
「失礼しました。高山さんもいらしてたんですね」
「あ、はい。その……森さんに、その、少しは他の作家さんと会ったほうがいいと言われたので……」
ごにょごにょと言い訳のように説明する市五郎に、結城は優しく微笑んだが、やはり表情に覇気がない。
「そうだったんですね。僕も上から同じことを言われました。スーツ姿も、とってもお似合いですね」
「あ、ありがとうございます。サラリーマン時代の遺物ですが、間に合って良かったです。結城さんも、その、とても素敵でしたよ? キリッとしていらした」
「ありがとうございます。……でも、変なとこ見せてしまいましたね」
困ったようにはにかみ、眼鏡の奥から上目遣いで市五郎を見た。
弱弱しい仕草に、市五郎の喉がグッと鳴る。
「……結城さん、少しだけパーティーを抜け出しませんか? ちょっとくらいなら森さんに叱られないと思いますし」
市五郎は静かな口調で結城を誘った。結城は少し戸惑うように視線を落としたが、市五郎へ目を向け「そうですね」と微笑んだ。
ふたりでエレベーターに乗り、一階へ降りる。さきほど外へ出た時に、コーヒーショップがあったのを思い出し、結城へ提案してみた。
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