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「一階に喫茶店がありますので、そこでメロンソーダでも飲みましょう」
メロンソーダと聞いて、ふっと結城の頬が緩む。
「いいですね。行きましょう」
レトロな造りの喫茶店は、テーブルも椅子も飴色。照明もランプのような色合いのオレンジ色で市五郎は一目で気に入った。
ここなら話もしやすいだろう。
「私はメロンソーダですが、結城さんはどうされます? あ、ホットケーキもありますよ? バニラアイス付きです」
「じゃあ、それにします。実は挨拶回りばかりで食事できなかったんですよ」
注文を済ませ、ウェイターが去る。一瞬生まれた沈黙。無理をして微笑みを作ろうとしている結城へ市五郎はそっと問いかけた。
「さっきの男性は……、あ、話したくなければ大丈夫です」
結城は触れられたくないだろう、という思いと、あの男性と結城がどういう関係なのか知りたいという葛藤がせめぎ合う。
「さっき……」
口を開いた結城の言葉が止まり、不安げな瞳があてもなくテーブルの上を彷徨う。しばしの沈黙が流れ、結城は言葉を続けた。
「実はあの人……僕の父親なんです」
「へっ? おとう、さま?」
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