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わずかに結城の表情に光が射すが、またすぐに目を伏せてしまう。
「いや、僕なんて……でも、ありがとうございます」
俯いたまま微笑む結城の手を、市五郎は強く握った。その握力に結城の体が竦む。こちらを見ない結城に市五郎がそっと名前を呼んだ。
「結城さん」
そろりと結城の視線が上がる。
怯えさせてしまっただろうか?
市五郎は安心させたくて微笑み、さらに結城の手を握る手に力を込めた。
「怖がらないでください。私はあなたを決して傷つけたりしない。あなたは大事な人です」
どうか伝わってほしいと市五郎は強く思った。
「私はあなたに会えてよかったと心から思っています。あなたでなければ、今の私はなかった」
市五郎の言葉を聞きながら、眼鏡の奥の瞳がキラキラと潤み始める。
「高山さん……」
市五郎の手の中で、結城の細い手にキュッと力が入った。
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