四、恋する男

14/19

88人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
 わずかに結城の表情に光が射すが、またすぐに目を伏せてしまう。 「いや、僕なんて……でも、ありがとうございます」  俯いたまま微笑む結城の手を、市五郎は強く握った。その握力に結城の体が竦む。こちらを見ない結城に市五郎がそっと名前を呼んだ。 「結城さん」  そろりと結城の視線が上がる。  怯えさせてしまっただろうか?   市五郎は安心させたくて微笑み、さらに結城の手を握る手に力を込めた。 「怖がらないでください。私はあなたを決して傷つけたりしない。あなたは大事な人です」  どうか伝わってほしいと市五郎は強く思った。 「私はあなたに会えてよかったと心から思っています。あなたでなければ、今の私はなかった」  市五郎の言葉を聞きながら、眼鏡の奥の瞳がキラキラと潤み始める。 「高山さん……」  市五郎の手の中で、結城の細い手にキュッと力が入った。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加