四、恋する男

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「いつもすみません。お気遣いなさらないで下さいね。原稿をお持ちいただけるだけで十分なので。でも、ありがとうございます。おやつにいただきますね」  礼を言う結城に、市五郎は慌てて説明した。 「私は甘い物が好きなのです。酒は飲めません。だから、スイーツを買うのは趣味みたいなもので、なので、気にしないで下さい」 「そうなんですか。コロネも美味しかったです。高山さんは舌が肥えてらっしゃるから今度持って行くお土産が大変だな」  照れたように小さく笑って冗談を言う。(しと)やかで上品な笑みに、市五郎は思わず口走っていた。 「結城さんこそお気遣いなく。あなたが来てくれるだけで、私こそ十分です」  言葉にしてから我に返ったが、結城は少し照れくさそうにはにかんでいる。出版記念パーティーでのことを思い出したのかもしれない。悪い反応ではないことに、ホッと胸を撫でおろす。そんな市五郎を眼鏡の奥からチラチラと見上げ、結城は遠慮がちな咳払いをして、話を進めた。 「あの、ところで、お持ちいただけた原稿っていうのは、例の?」 「あ、はい。こちらにデータは入っていますが、今日はプリントアウトもしてきました。シリーズの一話目になります。プロットに記載しましたが、前回目を通していただいたアレをプロローグにもってきて、時間軸を戻し、本編スタート。再度、プロローグの場面に戻る形にしました」
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