四、恋する男

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「拝見しますね」  原稿を受け取り、さっそく読み始めると、結城の表情が徐々に明るくなっていく。興味を引いているらしい。全部読み終え最後に「ウンウン」と頷き、結城は満足そうに「良いですね!」と顔を上げた。  市五郎はずっと固まっていた肩を下ろしながら息を吐いた。結城の言葉を繰り返す。 「……いいですか?」 「ええ、このまま進めて行きましょう」 「ありがとうございます。あの、ここをこうした方がいいとか、ありましたら、またメールでもいいので……教えて下さい」  両手を膝頭で揃え、深々と頭を下げる。  私が長編を、しかもシリーズで書けるかもしれないなんて、やはり現実味がない。 「はい。またゆっくり読ませてもらいます。なにかあったらご連絡いたします」 「はい。よろしくお願いします」  市五郎は頭を上げながら、もうこれで用事がなくなってしまった。と落胆していた。  いや、落胆するところじゃない。逆じゃないか。と思い直す。 「……また、書けたら、持ってきます」  結城は「はい。お願いします!」と笑顔で応えた。
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