五、内密の依頼

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 曽根はなるほどと頷き、「出来るだけ希望に添うよう頑張ります」とやる気に満ちた表情を見せてくれた。    その後、自宅へ戻ってから市五郎は深く反省した。  結城は出版社の人間で、市五郎を指導する立場の人間だ。それなのに、その結城をモデルに指名してしまうとは。もっと言えば、己の気持ちがバレてしまうのでは? という不安も少しだけあった。  だが、出来上がったアニメタッチの主人公は、髪型といい体型といい雰囲気といい、まさに結城真人だった。市五郎は感激した。勇気をふりしぼり、結城の名前を上げて良かったと心から思ったのだ。  ……仕方がないではないか。それだけ結城さんが魅力的だということだ。  どうして同性の彼にこんなに心惹かれてしまったのだろう。華奢な体型で、色白で、柔らかそうな肌をしているから? 物静かなタイプだから? 大声を出したり、ガハハと大口を開けて笑うところは見たことがない。どちらかというと、口を隠してクスクスと笑う。物静かなタイプだが、人あたりが良く、常に清潔感があり、誰からも好かれそうだ。出版パーティの時も、招待客達とそつなく談笑していた。  森さんは確か、結城さんは二十六歳だと言っていたが見た目はもっと若い。なのに、瞳の奥は静かで温かく、包み込まれるような安心を感じる。私のような人見知りですら、また会いたいと思ってしまうほどに。
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