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少しづつ溜まっていく琥珀色の液体を眺めていたが、いつの間にかガラスのポットは満タンになっていた。
まるで己の姿を見るようだ。
諸々が重なり、気付けば結城への気持ちは引き返せないところまできていた。気の迷いとか、勘違いなどとごまかすこともできそうにない。
市五郎は取手を掴み、ガラスのポットを慎重に引き出すと、かぐわしい香りを胸いっぱい吸い込んだ。用意しておいたコーヒーカップに液体をたっぷり注ぎ、書斎へ戻る。
「お待たせしました。どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
お行儀よく頭を下げ、コーヒーを飲む結城をそっと眺める。
……私はまんまと釣られてしまったのか。いや、この人にそんなつもりはサラサラないだろう。私は今年で四十八になる。二十代の若者に、一方的に熱を上げるなんてバカげているのだろう。そもそも、私は結城さんとどうこうなりたいなどと、不埒なことは考えていない。しかし、心惹かれていることを否定もできない。結城さんは……男だというのに。
「高山さん、この主人公ですが、モデルとかいるんですか?」
考えに耽っていると、結城が唐突に言った。突然の質問に市五郎は激しく咽そうになった。
「ぶふっ! んんっ!」
「えっ、あ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。すみません。えっと、な、な、なぜですか?」
「はい、主人公、面白いですよね。ギャップが魅力的で、一見冷めていて任務にストイックに見えるのにどこか奔放というか……。イラストも作品のイメージとピッタリで、驚きました」
「ああ、はは……、よかったです。ミーティングの賜物ですね」
質問に答えてないと知りつつ、市五郎は適当にお茶を濁した。
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