五、内密の依頼

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◇ ◇ ◇ 「届きましたよ! ファンレターです」 「……え……」  市五郎が玄関を開け結城を迎え入れるなり、彼は眼鏡の向こう側でキラキラと目を輝かせ、両手を差し出した。両手に握られていた六通の封筒。結城は興奮している様子で更に封筒を市五郎へ向けた。  聞きなれない単語にポカンとしてしまう。呆けた表情のまま結城と手のひらの封筒を見下ろす。 「高山さん宛です!」 「……私に、ですか……」 「あ、……すみません、会社の規則で作家さんにお渡しする前に、危険物がないか、脅迫めいた文章ではないかをあらかじめこちらでチェックしないといけないため、先に封を開け確認させてもらいました」  市五郎は思わず結城に抱きついてしまった。  いや、結城にしてみれば、上からのしかかられたという感じだろう。とにかく、初めてのハグというものを自らしてしまったのだ。もちろんすぐに我に返り、慌てて回した腕を解いた。 「すみません。あまりに感激してしまって」  結城は少し驚いていた様子ではあったが、さほど気にも留めていないように 「ウンウン」と頷き市五郎へ微笑んだ。 「すごいですよね、六通も。良い反響だと思います」 「全部、結城さんのお陰です。本当にありがとうございます」
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