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書斎へ戻り、結城と共に封筒を開いた。
結城は市五郎の少し後ろに正座をして待ち構えている。
手紙の内容は、どれも嬉しい物ばかりだった。結城の読み通り、エロシーンのみならず、主人公のミッションでもドキドキを感じられると興奮の感想が書きつづられている。今後の展開を期待しているというものや、是非、シリーズ化して欲しいとハッキリ書いてあるものもあった。
「……すごく、嬉しいです」
「ええ。頑張りましょう」
生き生きとした表情の結城が手を差し出す。市五郎はその手を見つめ、おそるおそる手を伸ばし、そっと握った。小さな手は市五郎の手にすっぽり覆われ、指が余ってしまうくらいだった。
結城は市五郎の手をもう片方の手で包み、頷きながら固く握手した。
やはり小さくて、柔らかくて温かい。その体温に市五郎の胸は少女漫画のようにキュンと鳴る。それを誤魔化すように「珈琲にしましょう」と台所へ避難した。
改めて台所から結城を眺める。
結城はいつも通りのスーツ姿。でも、今日は上着を脱いでいる。
最近は堅苦しい遠慮はなくなってきた。もちろん、対応は今まで通り丁寧で、礼儀正しい。スイーツ選びが難しいと言いながら、差し入れもしてくれる。
「まだまだ暑いですね。と言いつつ、いつもの珈琲ですみません」
キンキンに冷えた書斎で物書きをしていると熱い飲み物が欲しくなる。市五郎は贅沢になんの魅力も感じないが、美味しいスイーツと、タバコ、そして、夏のエアコン代だけは贅沢なのかもしれない。
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