五、内密の依頼

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「いえいえ。部屋が涼しいので、かえって贅沢な気分です。ホットはやっぱり落ち着きますし、香りもいいですよね」  大きな長方形の家具調座卓で向き合い珈琲を飲む。結城の差し入れの洋風ミルクわらび餅も、とても美味しかった。  心惹かれる人と二人きり。珈琲とスイーツをゆったり楽しむ。これより贅沢な時間はない。そして、こんな気持ちになってしまう結城の魅力を思う。  あの日、目撃した結城はメガネを外し、服装もラフで、奔放な雰囲気だった。他人の目もあるのにまったく意に介さず。相手の男性の手を握り、甘えた素振りをしていた。あの時は衝撃を受けたが、あれがキッカケで書いた短編を長編にしてみないかと、結城に勧められたのだ。  何に衝撃を受けたのかと今更ながら考えれば、やはりギャップなのだろうと結論に達した。今、目の前で爽やかに微笑む青年は、メガネを外してスーツを脱がせば、途端に妖艶な色香を放つのではないか。あの白いシャツとネクタイの下に隠されているものを見たい。そう日々、妄想……いや、想像してしまうのだ。  あの男性は恋人なのだろうか。それとも、一時の相手なのか?   それも市五郎は気になるところだった。面と向かって尋ねることなど勿論できない。
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