五、内密の依頼

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 市五郎の知り合いもそうだが、一般のゲイの男性は、本人が隠しているつもりでも、ふとした仕草や言葉遣いなどで、「そうなのかな?」と感じるものだ。しかしスーツ姿の結城からはそれを感じない。  おしとやかな雰囲気は持って生まれたものだろうし、爽やかな好青年も演技ではないと思う。よほど気をつけているのかスイッチが入るとガラリと変わるのか……。そんな結城に「見ましたよ」などと言ったらどうなるのか、予想もつかない。  結城の柔らかそうな頬を見つめながら市五郎は考えていた。 「それにしても、高山さんのお宅は素敵ですね。街中からさほど離れていないのに静かで。街の喧騒が嘘のようですよ」  雪見障子からは縁側とその先の庭が見える。その庭を眺めながら、結城が褒め称える。  たしかに、この家は祖父の代からのもので、作りは古く砂壁は厚い。大通りから外れた場所に位置している分、喧騒からは程遠いし、平屋だが天井が高い分、暑さもマシだろう。  庭は祖父の趣味だったらしい。自分がもう少しマメなら、もっと綺麗な庭を作れるのだろうが……。  結城といると思いもしなかった発想が生まれる。まるで彼が引き出してくれるようだった。
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