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「私はこの通りです。見たまんまですよ」
つい苦笑交じりに答えてしまい、それにも後悔した。
「よかったです」
ニッコリと微笑む結城に「え?」と戸惑う。何が「よかった」なのか。
それって……。
淡い期待が市五郎をときめかせる。ドキドキしながら真意を促した。
「……と、言うと?」
「邪魔されなくてすみますからね」
「……なるほど」
執筆の時間が減ると言いたいのか。そうだよなと納得する。期待する方がどうかしている。
市五郎がションボリしていると、さらに結城が言葉を続けた。
「僕のためにも、そのままでいて下さい。なんて、傲慢ですよね」
さっきみたいに「アハハ」と笑い飛ばせばいいのに、結城はいつものしとやかでありながらも、少し照れる仕草を見せた。
グッと胸に何かが迫ってくる。
市五郎はそれを体の奥へ流し込むようにコーヒーを飲み干した。
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