六、雷鳴

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『コノメッセージヲショウキョシマスカ? ショウキョスルバアイハ……』  市五郎は番号を押し、もう一度曽根のお気楽なメッセージを聞いた。何度聞いても、内容は変わらない。しかも話す声が半笑いのようにも聞こえる。  こいつ……今度会ったら首を絞めてやる……  市五郎はメキメキ握り潰す勢いで携帯を握りながら、メッセージを消去した。そして呆然として畳に横たわった。  もう魂も抜けたような気持ちだった。  結城さんに私の妄想がバレてしまった……。どう思ったのだろう? どんな表情をしたのだろう? 忌々しい……メッセージを残すなら、そこまで教えてくれたらいいのに。  かつて大いに感謝したイラストレーターへの恨みが募る。 「ああ……ダメだ……もう……ダメだ……」  夢精した時よりさらに落ち込み、右腕を額に乗せる。  目を閉じていると、小さくゴロゴロと雷の音が聞こえてきた。風の音もする。まるで今の市五郎の心情を現わしているようではないか。あの蒸し暑さは夕立の前触れだったのだろう。ポツポツと庭で大粒の雨が落ちる音がしたかと思うと、すぐにバケツを引っくり返したような激しく叩きつける雨音が市五郎を包んだ。  うっすら目を開けると部屋の中は真っ暗だった。まだ午後三時過ぎなのに、もう日暮れのように暗い。ピカッと雪見障子が白く光った。二秒程でガラガラガラと鳴る雷。近づいてきている。  停電になったら厄介だと、市五郎は重い体を起こし、電化製品やパソコンの電源コードを抜いた。落雷すれば、電源コードがショートして電化製品が壊れてしまう恐れがある。特にパソコンはイチコロだ。
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