六、雷鳴

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 市五郎は冷えて血の気を失っている結城の顔へ手にしたタオルを持っていきかけ、グッとタオルを握りしめた。  暖めてやりたい衝動に耐える。 「ほんと、急に降ってきてしまって、焦りました。高山さんがお家にいて下さって助かりました」  結城はタオルで全身の水気を吸い取り、靴を脱いで、脱ぎにくそうに靴下を片足ずつ脱ぐと、タオルへ足を乗せた。市五郎はすかさず屈んでもう一枚の小さなタオルを手に、結城の濡れた足を拭いた。親指と人差し指の間にタオルを入れて丁寧に水気を取る。 「えっ! あっ、あ、た、高山さん!? 自分で拭きますっ」 「髪もちゃんと拭いた方がいいです」 「……はい」  頭上でやけに小さな返事が聞こえた。  どう思われているのだろうと内心ハラハラした。だが、今唯一触れることができるのは、ここくらいだと思ったのだ。  市五郎はせっせと結城の両足の指の間の水気を取り満足し、風呂場からカゴを持ってくる。結城は玄関に立ちすくんだままだった。頭から被ったタオルの両端を両手でギュッと握っている。  タオルで影になった結城の表情は見えなかった。
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