六、雷鳴

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「風呂を沸かすので、ここに濡れた服を入れて、書斎で休んでいて下さい。着替えを出しますので」 「そんな、タオルを貸してもらえただけで。ほんと、ほんと大丈夫なので」 「大丈夫じゃありませんよ。夏じゃないのですから。濡れた服は体温を奪う。年上の言うことはきくものです」  顔をあげると、結城の顔は真っ赤に熟れていた。 「……はい」  またもや頼りなく弱々しい返事。「失礼します」と言って濡れた靴下や上着をカゴの中へ入れていく。それを確認して、タンスが置いてある部屋へ入り、普段使っている部屋着を結城へ持っていった。  玄関でそろそろと服を脱ぐ結城の姿はハッキリ言って心臓に悪かったが、ずぶ濡れの服を着ていてはいろんな意味でマズイ。  結城はスラックスを脱いで青いネクタイとシャツにパンツ姿だった。匂い立つ色香に市五郎は目眩がしそうだった。前こそ濡れていないが、肩や腕、背中も白いシャツが肌に張り付いている。 「……シャツまで濡れているじゃないですか。早く、これを」  市五郎は目をそらし、服を渡した。  打ち付けられる暴風雨は、ますます激しくなっている。結城の肩越しに玄関へ目を向けた途端、玄関が真っ白に光った。 「うっ」
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