六、雷鳴

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 その瞬間、天界から激しい炸裂音が轟いた。  結城が小さく悲鳴を上げ、体を竦める。耳を押さえギュッと目を瞑る姿に何かが弾け飛び、市五郎はその体を強く抱きしめ、己の背中を玄関へ向けた。  その瞬間、ガーンともドーンとも言えない破裂音が頭上で響いた。爆弾が落ちたような衝撃が何度も続く。結城はその度にビクッと体を震わせた。  案の定、廊下の電気が消えた。停電だ。  相当怖いのだろう。結城はガクガク震えながら市五郎にしがみついていた。薄暗い廊下。雷が遠のくまで、市五郎は結城を抱きしめ続けた。  しばらくすると、雨足が遠ざかり、雷の音も小さくなっていく。結城は目を開け、市五郎の腕の中で視線だけを動かし見上げた。おどおどと揺れる瞳はたいそう儚く、美しい。守ってあげたい欲が心の底から込み上げてくる。 「…………」  薄暗い闇の中で見つめ合う。結城は何も言わず気まずそうに視線を外した。青かった頬がゆっくりと火照り色付いていく。小さな心音がトクントクンと聞こえてくる錯覚に市五郎は陥った。  この心音は私の物なのか、それとも結城さんか……  雷もかなり小さくなった。もう結城を抱きしめる理由もない。腕を解くしかないのだ。  市五郎が腕を緩めたその時だった。また頭上で大きな雷が鳴った。ギュッと結城がすがりつく。市五郎は結城の顎に手を掛けクイと持ち上げると、小さく開いている唇を塞いだ。結城の目が大きく見開く。
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