六、雷鳴

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「んんッ!」  篭った変な声を上げ、結城は腕の中で必死に逃れようともがいた。市五郎はやぶれかぶれな気持ちになった。どうせ拒否されるのなら、ちゃんと気持ちを伝えよう。結城の唇を解放すると同時に打ち明ける。 「好きなのです。あなたが」 「えっ!」  結城は大きな疑問の声を発した。 「聞こえませんでしたか? あなたが、好きなんです」 「……す……き?」   結城は驚いた顔のまま文字通り固まった。  言葉を失ってしまったようだ。  それにしても良く固まる人だ。そこが可愛らしくて、魅力的なのだけれど。などと、こんな時なのに考えている自分に気がつく。 「誤解しないで欲しいのですが、私は同性愛者ではありません。そういう経験も女性としかありません。そして、もう、人を愛することもないだろうと、思っていました」  固まっているのをいいことに、結城の柔らかそうな頬にそっと手のひらで触れる。想像通りの柔らかさだ。市五郎の手のひらにしっとり吸い付いてくる。いつまでも触れていたくなる。 「あなたに会うまでは、そんな気持ちはもう私にはないと思っていたのです」
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