六、雷鳴

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 結城の瞳が眼鏡の奥で動揺と不安に揺れている。 「あ……ありがとう……ございます」 「礼を言うのは私の方です」  邪魔なメガネをスッと上げて抜き取る。 「ああっ」  見上げた結城の唇を、市五郎はまた塞いだ。すぐに視線が市五郎に戻される。見開いた瞳はウルウルと濡れ、今にも溢れそうだ。唇は固く閉じたまま。市五郎はその唇からそっと離れ、フッと微笑んだ。外したメガネを結城へ返す。 「無理強いするつもりはありません。ただ、誤解して欲しくなかっただけです。キスしたのは、あなたの色っぽい姿に魔が差したからです。すみませんでした」  結城は手のひらの眼鏡を見つめ胸の前でギュウッと握ると、ボソッと小さな声で言った。 「あの、と、突然すぎて……でも、お気持ちは……わかり、ました」  おそるおそる視線を上げる。  潤んだままの目が、上目遣いで市五郎を見つめてくる。  怖がっている。でも、拒絶とも違う空気を市五郎は感じた。 「あなたは優しい人ですね。ですが、ハッキリ拒否しないと、私はあなたを抱こうとしますよ?」  結城の体がビクッと跳ね、後退する。しかし相変わらずその瞳は市五郎を捉えたままだ。おどおどとしたその様子は市五郎の中の背徳感と保護欲を同時にくすぐった。  市五郎はもう一度、結城を怯えさせぬようゆっくり囲い、そっと囁いた。 「怖がらないでください。私はあなたを傷つけることはしない」
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