六、雷鳴

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 結城の肩を抱き、廊下に面した和室を開けた。そこはタンスが並ぶ衣装部屋だった。押し入れを開け、客用の布団を掴むと畳に敷く。結城は不安気な声で呼びかけた。 「あ、あの……」 「廊下では身体が冷えてしまいます。あなたは大事な人なのです。風邪など引かせたくない」  市五郎の言葉に、結城を首を竦め小さくなりながら、少しはにかむ表情を見せた。 「いつまでも濡れた服を着ていたら、体温を奪われてしまう」  結城を敷いた布団の上に座らせネクタイを外し、シャツのボタンを上から外す。 「じ、自分で、やります」 「やりたいのです。やらせてください」  おかしな会話だと思いながらシャツのボタンを外す。結城はおろおろとするばかりだった。焦りと羞恥が混じった顔で体をこわばらせる。シャツを脱がせると、白くて柔らかそうな肌が現れた。市五郎は熱い視線で結城を見つめ、ため息を漏らした。 「すごく……綺麗だ」 「……へ?」  ちゃんと聞こえているのに、華奢な体を竦め居心地悪そうに、許しを請うような表情で聞いてくる。  まるで生娘のような結城に、この人はいくつ顔を持っているのだろうと、市五郎は思う。  奔放な顔も、しっかり者の顔も、爽やかな笑顔も、怯えた表情も、情けない困り顔も、どれもこれも魅力的だ。
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