六、雷鳴

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 市五郎は掛け布団を掴み、結城を押し倒した。 「わっ……」  二人で布団にすっぽりとくるまる。状況に困惑している結城へ市五郎は穏やかな口調で言った。 「これなら、寒くないでしょ?」 「はぃ……でも、その」  小さな、小さな声。困った表情がとても愛らしい。 「あなたは、とても可愛らしい。全部、見せてくれませんか?」  髪を撫でながら、市五郎は丁寧にお願いした。結城は眉を下げ、見上げていた瞼を落とし瞬きをする。 「あの、全部……って?」 「あなたが喘ぐところも、鳴くところもみたい」 「え、それって、え?」  ボーイズラブの雑誌編集をしていて、市五郎の書いた小説を読み、モデルが自分だとわかっているはずなのに、結城は不思議なほど戸惑ってばかりいる。  まるでそういう世界を知らない人間のような反応だ。あのレストランで見た結城はどこにもなく、無垢な仕草や、身体の微弱な震えは戸惑いの演技をしているようにも見えない。その掴めない感覚がまたいっそう、市五郎を惹きつけた。  この人を知りたい。全てを。
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