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◇ ◇ ◇
激しかった雨が上がり、風呂へ入った結城は、会社に直帰の電話連絡を入れた。市五郎は二人分の蕎麦を湯がき、鴨南蛮を作った。
「食べましょう」
書斎の机に向き合い、二人で静かに蕎麦を食べる。
冷えきっていた結城の頬は桃色になっていた。ずっと握っていた眼鏡ももういつも通りの定位置に戻っている。
つゆを飲み、「ほう」と一息ついた結城の手がピタリと止まる。そのまま蕎麦を見つめながらボソッと問うた。
「あの、僕たちこれから付き合う……という、ことになるんでしょうか」
不思議な問いかけだと思いつつ、市五郎は真剣に応えた。
「私はあなたとお付き合いしたいです。結城さんさえ良ければ、付き合って欲しいと思っています」
俯いたままの結城だったが、頬はさっきよりも赤みを増したようだった。
「僕は、高山さんのことを好きなんだと思います。いつものおやつも楽しい時間でしたし。さっきの……たくさんの言葉も、とても……その、素敵でした」
「……触るのはダメですか?」
結城がギュッと身を竦める。流れる沈黙。止まった空気にいたたまれなくなり、市五郎が限界を感じた時、また小さな声がした。
「ダメでは、ないです。少し、怖いけど」
「……結城さんは、あ、答えにくければ答えないで結構です。……男性とお付き合いしたことはありますか?」
「……ないです」
逃げるように視線を逸らせ、とても不安げな表情をする。
母からはぐれた小鹿のようだ。
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