六、雷鳴

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「駅前のイタリアンレストランのお店、ご存知ですか?」  えっ、と顔を上げた結城は、キョトンとしていた。  市五郎の質問が予想外だった。ということだけではなく、寝耳に水といった様子。さっきまでの照れや不安は消えていた。 「なぜそんなことを?」 「以前、一人で食事をしていて、結城さんを見たような気がしたのです。でもメガネは掛けていなかった。服装もまったく違っていたのですが、よく似ていたのですよ」 「僕は、行ったことないです。……メガネも絶対外さないですし」  そう言いながら、ぎこちない動きで眼鏡を確かめるように触っている。  さっき眼鏡を外した時もかなり動揺していた。  結城さんにとって、眼鏡は洋服と同じなのかもしれない。または社会人として振る舞うための一種のお守り。ではあの時の彼はやはり別人だったのか……にわかには信じられない。 「そうですか……じゃあ他人の空似だったんだ……」  市五郎の呟きにまた沈黙が流れた。  その沈黙を、心もとない声がそっと破った。 「……あの……高山さんは、もしかしたらその方を好きなのでは……」 「私が好きになったのは、家に初めて訪ねてくれて、私をずっと励ましてくれたあなたですよ」  結城はヒュッと息を吸い込み、首を竦めるとちょこんと頭を下げた。 「すみません。あの、変なことを言ってしまって。でも……ちょっと失礼します」
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