六、雷鳴

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 結城は断り箸を置くと、静かに立ち上がった。鞄の中から封筒を出す。結城が雨に濡らすまいと上着の中に入れ、抱え守っていたものだ。  封筒の中身は原稿だった。それを結城が市五郎へ向ける。次号の扉絵の原稿だ。手枷足枷をされている主人公。 「おお……、とても素敵ですね」  市五郎の感想に結城は落ち着かないようにそわそわと視線を泳がせ、言いにくそうに話した。 「その、モデルがいるそうです。それは僕らしいけど、僕としてはどうもそうは思えなくて。もしかしたら、さっきおっしゃっていたレストランの方なんじゃないかな……って」  市五郎はバツの悪い思いをしつつ正直に打ち明けた。  今更、隠すのもおかしな話だと思ったからだ。 「あなたですよ。私はいつも、あなたのネクタイを外して、その肌に触れてみたいと妄想していました。いつもあなたの夢ばかりみていました。まるで中学生のように、です」  ぶわっと、一気に結城の白い肌が赤くなる。隠れるように顔を俯かせた結城に市五郎は続けた。 「あなたは本当に可愛らしい。そうやって戸惑う様子さえ、私を誘っているようです」  結城は返事に困り果てているようだった。市五郎はもっと困らせてみたいと思いつつ、そんな結城を眺めた。 「……実は、今日伺ったのは、高山さんに聞き……言っておきたいことがあって。主人公のモデルが僕だとして、……僕は、嫌じゃないですって……その、お伝えしたくて」 「え?」
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