死神の供述

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死神の供述

「島原夢子を殺害した動機は、両親を殺された事への復讐か」  とある警察署内の狭い取調室。そこで死神こと橋本達哉は警察の調書を受けていた。達哉は橋本稔・愛菜夫妻の息子だった。  自宅火災は母の火の消し忘れによる事故だと聞かされていた達哉だったが、数年前、両親の命日に行った墓参りで偶然夢子と知り合った。  夢子は軽い認知症を患っているのか、達哉を死神だと思い込んでいるようだった。そして、両親との事を自分に話して聞かせた。  母とは親友で、父とは結婚まで約束した仲だったが、自分の両親に邪魔をされ、二人と疎遠になってしまったと。その理由について聞いてみたが、その時の夢子はそれ以上何も言わなかった。しかし認知症が進むにつれて夢子は現実と夢の区別がつかなくなる事が増えるようになった。  そして先日、ようやく話してくれたのだ。両親が他界した日の真実を。  夢子が話し終えた後、気が付いた時には既に手が出ていた。静かに海へと落ちていく夢子に、達哉は一瞬何が起きたのか分からなかった。  正気に戻って自分は何て事をしてしまったのだろうかと、怖くなって慌ててその場から逃げ出した。その翌日、溺死体が見付かったというニュースを見て達哉は警察に出頭したのだった。 「今思えば、彼女は俺が二人の息子だと気付いていたのかもしれません。彼女は死にたがっているように見えたんです。俺なら自分を殺してくれる、そう思って両親の話をしたのかも…」  言ってボロボロと泣き崩れる達哉。もし本当に夢子が死を望んでいたとしても、だからと言って殺して良いわけではない。 「島原夢子の部屋から遺書が見付かった。4人もの命を奪ってきたが、自ら命を絶つ事だけは出来なかった。だから君を利用すると、遺書と言うよりは告白文のような事が書いてあった」  達哉が言うように夢子は死を望んでいた。その為に達哉を利用したのだった。達哉は加害者であるものの、夢子と言うどこまでも身勝手でわがままな女の最大の被害者でもある。 「理由はどうあれ、君は人を殺したんだ。その事実は変わらない。だが…警察である俺がこんな事を言うのも何だが、同情はする。裁判では執行猶予がつくだろう」  嗚咽を漏らす達哉の肩に手を置き、慰めるように刑事は言った。
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