小さな芽

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 水に濡らした寝癖も首に巻きつけたマフラーも乱れた。肩からずり落ちてくるリュックを鬱陶しそうに直すが、あまり意味がない。澄み切った朝の空気は、肺を冷やし、吐いた息を白く曇らせる。  リズムよく歌っている信号機。今の圭斗には焦りを煽る材料にしかならない。駅前の横断歩道から見えるホームには、圭斗が既に乗るはずの電車が到着している。赤信号にむかつきながら深呼吸、弾んだ息を整え、青信号の準備をする。  青に変わり、圭斗は卓球部で鍛えた瞬発力を味方に横断歩道を駆け出す。駅に一つしかない有人改札。早歩きに切り替え、改札横で眠たげに立っている駅員に通学定期を見せてホームに飛び込む。 「あぁ」  玄関を飛び出した時からほんとはわかってたじゃん。家からの全力疾走と乗り遅れた恥ずかしさで火照った体を誤魔化すように圭斗はマフラーを外す。膝に手をつき落胆する圭斗の横には、白い頬と鼻を赤く染めたブレザー姿の女子高生が電車の後ろ姿を悲しげに見つめていた。  空から雪がひらひらと落ちてホームにまで入り込んでいた。時計は午前七時三十八分を指している。
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