小さな芽

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 一月後半に入ると私立高受験が終わり、公立高を受験する生徒たちの空気がより重く鋭いものになる。圭斗の中での緊張感が日に日に増していく。  いつ爆発するかわからない帯電している圭斗の心に落ち着きと癒やしをもたらせてくれていたのは、やはりあの人とあの宝物だ。  いつかあなたと分かち合いたいと、その柔らかな気持ちが心の拠り所だった。  雪が解けず、踏み固められた白い通学路を歩き、電車に揺られる日を何度も繰り返していたら、いつの間にか入試を終えていた。あとは結果を待つのみ。車窓から見えた真っ白な田んぼに色がついてきた。ホームに雪が入り込むことがなくなった。マフラーもそろそろ仕舞い時だ。  軽やかになった圭斗の心身の中に残っていたのは一つの小さな芽だった。恋愛物語は読んだことがある。だいたいは弱気な主人公でも最後には勇気を振り絞るものだった。芽から茎をのばして力を振り絞り花を咲かす。  入試の結果は合格だった。颯太が半泣きで合格したと報告してきた時、不意に圭斗の涙腺も弱くなった。圭斗に晴れやかな春の予感が流れ込む。
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