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 そのときは自分でも、何か考えに捉われていただけかもしれないと自分を納得させた。けれど、同じような例はその後も続いた。講義のレポートの発表日をすっかり忘れてその講義を台無しにしてしまったり。本当に冷や汗ものだった。  おかしいのは、あとで言われてはっと気がつくというのではなく、言われてもまったく思い出せないこと。そこだけがすっぽりと記憶から抜け落ちている。そうなると、だんだん自分が信じられなくて怖くなってくる。私は小さな手帳を持ち歩いて、特に重要なことはメモをしておくようになった。  それで失敗をかなり未然に防止できるようになったが、やはり体がひんやりするような感覚になるのは、メモを読み返しても何のことだか思い出せないことがあるからだ。その時点で、いついつ、どういう場で、何があるのか、自分は何をすればいいのかをそっと誰かに尋ねる。未然防止とはそういうことだ。  そういうことが続く中、私はようやく自分の住んでいるフラットに帰宅して、溜息をつきながら階段を上がった。部屋は二階だ。自分の部屋の鍵穴に鍵を差し込み、まわしつつ、またひやりとする。鍵は閉まってしまった。つまり、開いていたということだ。  怖くなって反射的にドアから離れると、驚くべきことにもう一度中から鍵が開く音がして、誰かが外をのぞいた。また心臓が冷える。  この人は、誰なのか。  
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