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 釈然とはしないままであったが、彼の話に偽りはなさそうだ。確かに私の方から呼んでいる。家に呼んでいるということは、よほど信頼している友人ということなのか。合鍵まで渡しているのだから。  これまで、出来事をすっかり忘れてしまうということはあったが、人そのものを忘れたというのは初めてだ。私の病気は進行しているのか(そう、その頃にはもう、自分は病気ではないかと疑いとても不安に駆られていた。一度CTも撮ってもらったくらいだ。しかし、脳に異常はないとのことで、ほっとすると同時に、原因も対処療法も分からないのでやはり落ち着かなかった)。 「そうすると、私はあなたにご馳走をするという約束を反故にしたことになるのね」 「そうなるね」  ノアはまた微笑む。温かみのある笑みになぜか心臓が高鳴る。 「どうしよう。何か食べに行く?」 「いや、いいよ、あるもので。まさか冷蔵庫が空ということもないだろう」  私はキッチンに行って冷蔵庫をのぞく。サンドイッチくらいならできるかな。卵もレタスも、ハムもある。調味料も残っている。生で食べられる野菜がちらほら。実をいうと何があるか分からずに買いすぎてしまうところがあるのだ。  いつの間にか後ろで一緒にのぞき込んでいた彼は、明るい声で「十分十分」とささやいた。 「僕も手伝うから、すぐ作れるよ」  
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