38人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
キッチンテーブルを挟んで彼と向かい合った。彼は器用そうに生野菜を切っていく。私はベーコンを細かく刻んだ。横のレンジでは卵がゆだっている。
バターもマスタードもケチャップもある。マスタードの瓶に手を伸ばしたとき、温かいものに触れた。すぐにノアの手だと察知して慌ててひっこめる。
「おさきにどうぞ」
彼は涼しい顔をしている。私はマスタードを先に使った。
何となく気まずくて、テーブルを離れコーヒーメーカーの方に移動する。砕いた粉を盛ってスイッチを入れる。じゅうっと蒸気が立って、香ばしいコクのある香りが辺りに満ちた。
ふと、自分のふだん飲んでいる銘柄でないことに気づく。
「あ、用意してくれてたんだね、僕の好きなコーヒー」
うれしそうにノアが言う。私は口を閉ざすしかなかった。
いつのまにこのコーヒーを買い込んでいたのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!