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 香り豊かなコーヒーを飲みながら、私は思い切ってノアに質問した。 「あなたは精神科医だと言いました。そして私は何度もあなたにお会いしている。先ほどのメールのやりとりだと、私があなたの家へ行くことが多かったようですね。カウンセリングを受けているというのは、その……」  ノアはコーヒーの香りを時間をかけて味わった後に応えた。 「そうです。君の記憶の欠落や混濁について」 「混濁、ですか」  私はきき咎める。 「確かに私はふだんから記憶の欠落に悩んではいます。でも、混濁とはあまり」 「思ってはいないんだよね」  もう十分に了解済みだというように彼は答えた。 「何か、病気なのでしょうか。私は不安で実はCTも受けたのですが、異常はないとの話で」 「そうですね。君がCTを受けたというのは僕も知っています。君はそれ以前にも検査は受けていて、異常なしと診断されている。とりあえず、ほっとしたものです」  私は微かな苛立ちを覚えた。 「そういうほのめかしのような話はやめてください。ずばりと言ってください。私は一体どうなっているの」  彼の眼が私を見た。奥まで覗き込むように。私は息をのみ、たじろいだ。 「そのことは、ずっと僕は君に言われ続けている。でも、君は次にはもう覚えていない」
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