1/2

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

 オリヴィアの店の仕事は、今日はとても忙しかった。近々開かれる若い男性デザイナーの個展のためだ。私は時折メモを見て確かめながら、自分の仕事をした。必要なインテリアのレンタルやその搬入。花束の予約の連絡。その他こまごましたこと。  途中で、テイラーさんが来た。テイラーさんが来ることはメモしてあったし、私も覚えていた。彼女は目をかけているデザイナーのために、万事抜けがないかをオリヴィアと一緒になってチェックした。さんざん細かい注文をしたうえで、満足して帰っていった。今日は白いワンピースで、薔薇のレースが施されていた。  オリヴィアはきびきびと業者にも指示を出し、忙しい中にも心地よい緊張感があった。おかげで朝からしていた仕事は昼過ぎには終わってしまった。  「お昼を食べに行こうか」とのオリヴィアの誘いを受けて、私はメモ用紙を繰った後、メールをチェックした。  『○○街のいつもの店で待つ──ノア・エヴァンズ』  誰だろう。それに「いつもの店」とはどこだろう。  私には分からなかった。  眉根を寄せる私を見てオリヴィアが覗きこんだ。 「あら、デートのお誘いがあったのね。知ってたら、もっと早くにあなただけ帰したのに」  心臓がつかまれたようだ。私はオリヴィアに尋ねた。 「オリヴィア、ノアという人を知っているのね。いつもの店ってどこなの」  案外オリヴィアは驚かなかった。何ともいえず優しい笑みを見せた。 「ジェシカ。ノアはね、以前はよくこの店にも来ていたわよ。あなたに会いに。そして連れ立って一緒に帰っていたわ。私はお邪魔だからいつも遠慮していたけど、ときどき一緒に食事や飲みに誘われた。その店のことね、きっと」  オリヴィアの口調から、ノアという人が不審な人物ではないことが分かって安堵した。しかも、もしかしたら、私の……。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加