トイレットペーパー・レクイエム

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私は引き攣った顔でトイレットペーパーを台の上に載せる。 するとその店員は頭を下げて、 「ありがとうございました」 と言った。 十秒程のロス。 これが命取りになる事を、この店員はわかっているのだろうか…。 私はまた、本降りの雪の中を自宅に向かい歩き始める。 トイレットペーパーを提げた手が悴む。 雪は容赦なく私を白く染めていく。 ダウンジャケットに雪がへばり付き、どんどんその体温を奪っている様な気がする。 今の内に距離を稼いでおかないと…。 腹痛の波はまた戻って来る事を私は知っている。 とにかく、自宅まで、自宅のトイレまでその波を抑える事が出来れば…。 私はそんな希望を胸に…、いや、お腹に抱いて、雪の中を歩いた。 何とか、何とか尊厳を守れる距離まで…。 私は額の汗を拭いながら自宅へと歩く。
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