卵が割れたら

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 大学1年生の夏休み前、洸士郎に告白された。彼は語学クラスのクラスメイトだった。  大学のクラスはいつも一緒なわけでもないから、私は妙な気を遣わずに、おとなしいけれど物腰のやわらかな女の子を演じていた。学部柄、男女比は女のほうが圧倒的に少なく、女の子にも男の子にもよく話しかけられた。私はいつも朗らかに返事をして、教科書を忘れた男の子が隣に座るのも許した。後で思えばそれは彼の計算づくだったのだけれど。 「お礼に帰り、奢るよ。4限で終わりでしょ」 「本当? じゃあご遠慮なく」  私は素直で邪気のない女の子を完璧に装えるようになっていた。  大学の近くのパスタ屋さんに入った。 「ここのカルボナーラ、絶品だよ」  言われるままにそれを頼んだ。  私だって、彼の下心に気づかなかったわけではない。けれど、彼は『本当、すごく美味しいね』と言いながらカルボナーラを食べる私を少し意味ありげに見て、こう言った。 「君ってさ、誰のことも信じてないでしょ」  フォークとスプーンを持つ手が止まった。 「なんかさ、ちょっと分かるんだよね、俺。そういうの」  
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