卵が割れたら

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 私は動転した。正直に言うと、動転する自分に動転した。 「一度、付き合ってみない、俺たち」  私はその場でイエスと言ってしまった。  高校のときとは違う意味で私は自由になれた。たまごにするような感情を持たない日々が続いた。それでも一つだけ、どうしても封じるべき感情はあった。洸士郎との体の関係だ。  どうして世の中の男女はこういうことをするのが当然だと思うのかは分からない。私にとっては少しもよくはなかった。それでも私は演技した。洸士郎は満足そうだった。  やがて私と洸士郎は卒業後の結婚を約束し、それは現実になった。  就活もそれぞれ無事に済み、私たちはマンションで一緒に暮らし始めた。  私にとっては、洸士郎が私という人間を理解していることが何よりも安心だった。母のことがあるので、自分の嫌な感情を彼にたいして言うことはほとんどなかったが、たまごの数が増えることもなかった。  そうか。  理解されないから、私は感情をたまごにしてきただけだったのだ。  そう思うと、嫌な感情に対処する必要もなくなった。  私はようやく自由になれた。たった一人でも理解者がいればそれでよかったのだ。信じられる人間がいればそれでよかったのだ。
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