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心の中にたくさんのたまごがある。
「感情のたまご」。
親ガチャに失敗した私が物心つくかつかないかの頃から身に着けたやり方。
嫌な感情、もっというなら、ヘドロみたいに溜まって消えない感情は、そっと殻に包んで心の奥にしまい込む。それも瞬時で。
でも、その感情はなくした訳でも忘れた訳でもない。ここが肝心。
とりあえず表層から隔離して、あえて言えばずっと温めているだけ。
いつかはそれを爆発させる日が来ることも予感しながら。
「美菜ちゃん、お母さんから、お迎えにいけないって連絡があって」
保育園の先生は私を心配するような表情を浮かべる。
でも、それは本心じゃないということはもう当時の私には分かっていた。
すっと感情をたまごにする。
「先生、気にしないで」
先生は『早く帰りたいのにあの女』って、お母さんのことを思ってるんだよね。その気持ちは当然だよ。先生は慈善事業をやってるんじゃなくて、お金のためのお仕事をしているだけ。
うちの母は、勘違いしている。不当に先生の時間を奪う権利はない。
本当は、お迎えなんていらない。
だけど、幼なすぎる私はこの場所から勝手に消えるわけにもいかない。そうしたらもっともっと、先生の時間を奪うことになる。
まだ幼子の自分がもどかしい。
そういう思いもすっとたまごにする。
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