第一章 理解不能のプロポーズは突然に

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「信用できない人間と連絡先を交換しようと思わない」  それどころか、淡々と返された言葉に一瞬で心が掻き乱された。  言い方の問題か、最初の印象が最悪だったからか。今更そんなふうに言われても、と言ってやりたいのをぐっと堪え、素直に彼に従い電話番号を告げる。  すると確認のために早速教えた番号に電話がかかってきて、結果的に彼の連絡先も手に入れる。 「登録しておいてくれ。十河久弥だ。また連絡する」  言い終わるや否や彼は車に戻っていった。たしか会社経営者って言っていたよね。どんな会社までかは聞いていないが、忙しいのも無理はなさそうだ。でも、久弥さんはTOGAコーポレーションの跡は継がないのかな?  ふと浮かんだ疑問を慌てて打ち消す。私には関係ない。連絡先を交換したとはいえ彼と深くかかわるつもりはない。向こうも恐らくそうだろう。  わざわざ私と話すためにここで待っていたり、土曜日に迎えに来ると申し出たりしたのは、すべては光子さんのためなんだ。意外と家族思いのいい人かもしれない。私には祖母がいないから、少しだけ羨ましく感じる。  気を引き締め直して家の玄関に歩を進める。  光子さんに会うよりも久弥さんに会うほうが妙に緊張してしまうのは、しょうがない。お見舞いの品と服装はどうするべきか。せっかくなので光子さんの好きなものを久弥さんに聞いてみようか。  通話履歴に残った未登録の電話番号を改めてじっと見つめ、私は忘れないうちにと彼の連絡先として登録した。
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