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もしかして久弥さん、私が母の手術費を含めお金を払ってもらっている身だから、気持ちがどうであれ彼にされることを受け入れていると思っているの?
その結論に達し、弱々しく口を開く。
「何度も言っていますけれど嫌じゃない、です」
声にして少しだけ勢いづいたのもあり、身じろぎして思いきって彼の方に体を向けた。
「久弥さん、私を見くびりすぎですよ。自分の気持ちを押し殺して久弥さんの言うことを聞くほど従順じゃありませんって」
「自分で言うのか」
軽い口調で告げてみると、久弥さんからあきれたような返事がある。でも神妙な彼よりこっちがいい。
「お気に召しません?」
「いや」
私の回答に久弥さんが苦笑し、彼の反応に胸を撫で下ろした。改めて久弥さんと目が合い、彼は私の頬を遠慮がちに撫でる。
久弥さんこそ、どうして私に触れるんだろう。夫婦らしくいるため? 今は他の女性と付き合わないって約束があるから?
「困ります」
ほぼ無意識に心の声が漏れ、私に触れる久弥さんの手が止まった。慌ててフォローしようとするが、言うべきかどうか悩んでしまう。
ちらりと彼をうかがうと、珍しく不安そうな顔が目に飛び込んできた。だから意を決する。
「私、こうして久弥さんに触れられるの……嫌じゃなくて……困っているんです」
打って変わってか細い声で白状した。
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