第五章 初デートで縮まる距離は確実に

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 対する久弥さんは大きく目を見開き、伏し目がちになる私の顎に手をかけ、自分の方に顔を向けさせる。 「困るってどういうふうに?」  真剣な眼差しで問いかけられ、衝動的に逃げ出したくなる。しかし、しっかりと回された腕がそれを許すはずもない。 「俺も少しは夫として瑠衣に求めてもらえているのか?」  困惑してなにも答えない私に、彼は違う形で質問してきた。私はこくりと頷く。  いいのかな。この関係で、私が久弥さんに対してなにかを望んでも。 「久弥さんがそばにいるとすごく安心ます。こうやって触れられるのも」  精いっぱいの正直な気持ちを伝える。すると額にそっとキスを落とされた。続けて瞼、目尻、頬と順番に唇を寄せられ一拍間が空く。  彼と視線が交わり、緩やかに目を閉じると唇が重ねられた。優しくて甘い温もりにどこか夢見心地になる。  一度唇が離れ、自分から久弥さんにくっついてみる。伝わる体温や心音に安心し、甘えるように彼の胸に顔をうずめた。絶対に彼より私の方が鼓動は速い。  久弥さんは私の頭を撫で、すっかり馴染みとなった彼の手のひらの感触に目を細めた。 「瑠衣」 「なんですか?」  名前を呼ばれゆっくりと顔を上げると、どういうわけか久弥さんは眉をひそめ、なんとも言えない苦悩めいた表情をしている。それを見て、なにかまずいことをしてしまったのかと血の気が引きそうになった。
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