第五章 初デートで縮まる距離は確実に

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「俺はまだ足りないんだ」 「え?」  久弥さんは私の顔の輪郭にそっと指を添わせた。その動きがやけに艶っぽく、心臓が跳ね上がる。 「もう少しだけ瑠衣に触れたい」  こつんと額を重ねられ、久弥さんが訴えかけるように告げてきた。けれど内容が正確に理解できない。自分がどうすればいいのかも。  あからさまに動揺して目が泳いでしまう。しばらく葛藤して悩んだ末、久弥さんを上目遣いに見た。 「ど、どうしたら……いいですか?」  こんな馬鹿正直に聞いてどうするの。ムードも情緒もなにもない。  尋ねてから冷静な自分が訴えかけてくるが、覆水盆に返らず。久弥さん、絶対にあきれている。  案の定、久弥さんはくっくっと喉を鳴らして笑いだす。情けなくなり、なんて声をかけたらいいのかわからず身を縮めた。 「まったく。瑠衣には敵わないな」  そう告げると久弥さんは私の唇に軽く口づけた。 「イエスと受け取っても?」  吐息さえ感じる距離で囁かれ、目で肯定する。それを受けて、すぐさまキスが再開された。  幾度となく角度を変えて唇を重ねられ、緊張しながら受け入れる。かすかなリップ音が耳につき羞恥心が増幅する中、舌先で唇を舐めとられた。  驚きで反射的に顎を引きそうになったが、彼の手が頬に添えられ阻止される。 「あっ」  嫌な気持ちはないはないが経験が乏しくて、言った通りどうしていいのかわからない。
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