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「俺はまだ足りないんだ」
「え?」
久弥さんは私の顔の輪郭にそっと指を添わせた。その動きがやけに艶っぽく、心臓が跳ね上がる。
「もう少しだけ瑠衣に触れたい」
こつんと額を重ねられ、久弥さんが訴えかけるように告げてきた。けれど内容が正確に理解できない。自分がどうすればいいのかも。
あからさまに動揺して目が泳いでしまう。しばらく葛藤して悩んだ末、久弥さんを上目遣いに見た。
「ど、どうしたら……いいですか?」
こんな馬鹿正直に聞いてどうするの。ムードも情緒もなにもない。
尋ねてから冷静な自分が訴えかけてくるが、覆水盆に返らず。久弥さん、絶対にあきれている。
案の定、久弥さんはくっくっと喉を鳴らして笑いだす。情けなくなり、なんて声をかけたらいいのかわからず身を縮めた。
「まったく。瑠衣には敵わないな」
そう告げると久弥さんは私の唇に軽く口づけた。
「イエスと受け取っても?」
吐息さえ感じる距離で囁かれ、目で肯定する。それを受けて、すぐさまキスが再開された。
幾度となく角度を変えて唇を重ねられ、緊張しながら受け入れる。かすかなリップ音が耳につき羞恥心が増幅する中、舌先で唇を舐めとられた。
驚きで反射的に顎を引きそうになったが、彼の手が頬に添えられ阻止される。
「あっ」
嫌な気持ちはないはないが経験が乏しくて、言った通りどうしていいのかわからない。
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