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水から上がったみたいに空気を必死に求め肩で息をする。心臓が破裂しそうに痛くて、舌も唇も感覚が麻痺している。
久弥さんはそっと私の髪を撫でながら指を通す。耳に髪をかけられ、剥き出しになった耳たぶに音を立てて口づけられた。
「やっ」
とっさに声が漏れ、顔を上げる。久弥さんはおかしそうに笑った。
「可愛いな、瑠衣は」
穏やかな表情に目を奪われる。
「か、からかってますか?」
さっきから私だけ動揺してドキドキしているのが少しだけ悔しい。
それが顔に出ていたのか、久弥さんは宥めるように私の頭に口づけを落とした。
「いいや。とりあえず今日はここまでにしておくか」
この触れ合いがなんだか義務みたいな言い方で、勝手に寂しくなる。
「これ以上していたら、止める自信がない」
ところがひとり言にも似た彼の呟きに目を見張る。続けて額に唇を寄せられた。
「少しずつでいい。瑠衣と本当の夫婦になりたいんだ」
なれるのかな? 久弥さんと本物の夫婦に。なってもいい?
だって私は――。
言葉を迷っていたら、久弥さんに抱きしめられた。
「明日からまた覚悟しておけ」
耳元で囁かれ、頭を撫でられる。
これから私たちの関係はどうなるんだろう。
不安と期待が渦巻く中、久弥さんの温もりを感じながら目を閉じた。
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