第五章 初デートで縮まる距離は確実に

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「急で悪いんだが、久志がここに来ることになっている」  久弥さんと向き合って朝食を終えた頃、彼から切り出される。なんでも来週末に行われるTOGAコーポレーションの新規事業に関するレセプションパーティーの打ち合わせをしたいとの申し出があったらしい。 「久弥さんも出席されるんですか?」 「そのつもりはなかったんだが……ここにきて急に参加するように言ってきたんだ。できれば断りたいが、出席できない祖母の後押しもあって」  鶴の一声ならぬ、光子さんの一声だ。伯父さまとの関係を思うと出席するつもりのなかった久弥さんの気持ちも理解できるが、一族としては顔を出しておいた方がいいという結論になったそうだ。  正式ではないが、久志さんの次期社長としてのお披露目も兼ねているんだとか。 「大変ですね」  どこか他人事のような感想を漏らす私を、久弥さんは真正面から見据えてきた。 「俺が出席するなら瑠衣にも一緒に来てほしい」 「えっ!」  そんなやりとりをしていたらインターホンが鳴った。久弥さんは眉間に皺を寄せたまま玄関に向かう。ややあって話し声が聞こえてきた。 「瑠衣ちゃん、おはよう。新婚家庭に朝から悪いね」  スーツを着た久志さんはどうやら今日も仕事らしい。私は立ち上がって挨拶をする。 「そう思うならわざわざ来るな。電話で済ませればいいだろ」  素っ気なく返す久弥さんに久志さんは苦笑した。
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