第五章 初デートで縮まる距離は確実に

33/42
5339人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「昔から親父は久弥を敵対視していて、何度も周りが止めているのに、あの態度なんだ。瑠衣ちゃんにも嫌な思いをさせたと思う。悪かったね」 「そ、そんな。久志さんに謝っていただくことでは……」  自分の父親のことを謝罪しないとならないのは、久志さんだってきっと複雑だ。けれど、それほどまでに久弥さんと伯父さまの溝は深いらしい。 「俺はべつにTOGAコーポレーションを継ぐことにこだわりはないんだ。もちろんここ数年はそのつもりで全力を尽くしてきたし、覚悟はある。けれど幼い頃からTOGAコーポレーションを継ぐのは久弥だと思っていた。祖父母は、久弥を孫としてはもちろん、後継者として育てている感じがしたから」  しかしそれはあくまでも周りの印象で、久則前社長が第三者に久弥さんを後継者にするという話は表立ってはしていなかったらしい。  もしかしたら久弥さん本人にはしていたのか、本当のところは不明だが、久則前社長が亡くなり、年齢的なものもあって必然的に久光さんが跡を継いだ。  ただし次の後継者は久弥さんだと感じる役員も多かったそうだ。中継ぎのように思われていた久光さんの苛立ちは、さらに久弥さんへ向けられていったという。 「でも祖父が亡くなってしばらくしてから『俺は跡を継ぐつもりはない』って久弥から言われたんだ」  続けられた内容に目を見張る。光子さんへの態度や久弥さんの話から、彼が両親に代わって自分を育ててくれた祖父母をとても大切に思っているのは知っている。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!