第一章 理解不能のプロポーズは突然に

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 土曜日、天気は晴れたがやはり風は冷たく、上品さを意識してフリルのあしらわれたアイボリーのブラウスにベロア素材のスカートを組み合わせ、コートを羽織る。  いつでも外に出られる準備をして家の中で待機しているが、悶々とした気持ちが収まらない。  久弥さんにお見舞いの品の件で一度連絡を取ってみたが『なにも用意する必要はない』と素っ気ない返事で終わった。ちなみに電話ではなくショートメールだ。そういうわけにもいかないから尋ねたのに。  思わずため息をついてしまう。  そして迎えた当日、ソワソワしながら支度をしていたら彼から連絡があった。ドキッとしたのも束の間、内容は仕事の都合で迎えに行く時間を遅らせてほしいというものだった。光子さんには連絡してあると補足され、忙しいだろうしひとりで行くと伝えたが、そこは断固として拒否される。  信用がないわけではないならこの扱いはなんなのか。なにか余計な話をすると思われている? 長居しそう?  意地でも彼自身の手で私を光子さんの元に送り届けたいらしい。こんなことなら、このあと用事が控えているとでも言ってしまえばよかった。  肩を落とすと、電話が着信を告げて震える。久弥さんが着いたらしい。私は慌てて玄関のドアを開けた。  この前と同じ位置に、見覚えのある車が停まっている。あのときは日もすっかり暮れていたのでまた印象が異なるが、私に気づいた彼が運転席から降りてきた。
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