第五章 初デートで縮まる距離は確実に

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 もしも久則前社長が久弥さんに継がせたい気持ちがあったなら、彼はきっとそれを汲んだはずだ。  伯父さまとの関係に遠慮して? それとも久則前社長は久弥さんに継がせるつもりはなかったの? でも今の話を聞く限り……。 「俺も理由を聞いたよ。そしたらあいつ『俺にはその資格がないから』って」 「資格?」  尋ね返すと久志さんは苦々しく笑った。 「詳しくは教えてくれなかったよ。それから会社の起ち上げを決めたって報告があって。祖父と付き合いのあった人の手助けもあったらしいが、そんな話は一言も聞いていなかったから、俺だけじゃなく祖母も驚いていた」 「光子さんも?」  久志さんは大きく頷く。久弥さんは本当に起業家としての道へ進みたかったのか。だったら光子さんに一言あってもよさそうなのに。  次々に浮かぶ疑問からある仮定を導き出す。もしかして久弥さんは――。 「あいつがわざわざ別会社を起ち上げたのは、俺や親父を含め、TOGAコーポレーションを継がないっていう久弥なりの意思表示だったのかもしれないな」  私の考えを読んだかのように久志さんは続けた。胸の奥がズキズキと痛む。 「久弥さんは……TOGAコーポレーションについて本当はどう思っているんでしょう?」  資格ってなに? その資格があれば、久弥さんはTOGAコーポレーションの跡を継ぐつもりだったの? 今だって……。 「それは瑠衣ちゃんが本人に聞いてみたらいい」 「わ、私ですが?」  突然の名指しに素っ頓狂な声をあげる。久志さんはさっきまでと打って変わって、いつもの人のいい笑みを浮かべニコニコとしていた。
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