第五章 初デートで縮まる距離は確実に

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「いいから」  そういった説明を久弥さんは一切無視して、一度自身の腕時計を見遣る。 「一緒に出掛ける口実にはならないか?」  ぶっきらぼうに告げられた言葉に、目を見張る。返事を悩んだ挙句、小さく答える。 「そ、そんな口実なんてなくても……久弥さんが誘ってくれたらついていきますよ」  彼に声をかけてもらえるのなら。  すると久弥さんは目を丸くしたあと、余裕たっぷりに笑った。 「なら行こうか、奥さん」  さりげなく肩を抱かれ、私も頷く。昨日、最初で最後かもしれないと言ったのに、まさかこんなに早く二回目が叶うなんて夢にも思ってみなかった。  久弥さんに連れていかれたブティックは、世界的に有名なイタリアの高級ブランドのお店だった。日本に数店舗しかない、いわゆるセレブ御用達のイメージで、まさか自分が足を運ぶ日が来るなんて微塵も思っていなかった。  完全に場違いだと怖気づく私をよそに久弥さんは私の手を引き、さっさと店内に歩を進める。 「十河さま、お待ちしていました」  ベテランのスタッフが(うやうや)しく頭を下げ、私はちらりと久弥さんをうかがった。  久弥さん、いくらなんでも慣れすぎじゃない? こうやって今まで付き合った女性とも……。 「光子さまのお加減はいかがでしょうか?」  心配そうに尋ねられ、律儀に答える久弥さんに考えを改める。ここは、光子さんのお気に入りのお店なんだ。
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