第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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「すみません。あの、緊張しちゃって」  ここは正直に答える。  パーティーだけではなく、久弥さんと泊まることも含めているとは言えないけれど。 「そんなに心配しなくてもいい。あくまでもメインは久志や伯父だ」  久弥さんのフォローに頷く。彼に余計な心配をかけさせるわけにはいかない。久弥さんの妻なら、こういうのに慣れている女性がいいんだろうな。  気持ちが沈みそうになったが、そのとき彼が私の髪先にさりげなく触れ、意識はそちらに持っていかれた。 「よく似合っている。こんな可愛い瑠衣を見られただけで、出席すると返事した甲斐があるよ」  信号が変わり再び彼は前を向いた。途端に早鐘を打ちだす心臓を押さえ、平常心を取り戻そうと躍起になる。  これってわざと? 狙って言っているの?  どっちみちさらりと受け止められる器量は私にはない。私の恋愛経験なんてたがが知れている。久弥さんと比べたら雲泥の差なのはあきらかだ。  そこで自分を叱責して、パーティーだけに集中しようと気持ちを切り替える。  左手の薬指で輝く結婚指輪は、やはりわずかに緩い。すり抜けて落ちるほどではないが、どこか心許ない感じがして、私たちの関係を表しているような気がした。
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