第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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 ホテルの一番広い会場を貸し切ってのパーティーは多くの人々で賑わっていた。白を基調とした会場の中央には大きなシャンデリアが煌々と輝き、床はワックスで磨き上げられ光を反射している。  前方には大きなスクリーンが下ろされ、おそらくこれを使ってTOGAコーポレーションの新規事業についての紹介があるのだろう。会社の繋がりはもちろん、十河社長と個人的に親しくしている人たちも招待されているようだ。  誰も知り合いがおらず、雰囲気に圧倒されそうになる私の腰に久弥さんが腕を回した。 「あの」 「離れるなよ」  こくりと頷くと、久弥さんがかすかに笑ってくれた。  そこから久弥さんの知り合いの方に会うたびに挨拶する。直接会社の経営には携わっていないとはいえ、前社長である久則さんのもとで育てられた久弥さんは、ある意味関係者では誰よりも顔を知られている。  光子さんの状態を尋ねられ、結婚を報告すると、口々にお祝いの言葉を述べられた。 「おふたりの出会いはどちらで?」 「祖母を通してです」  そつなく返す久弥さんは、堂々として落ち着き払っている。たしかに嘘はついていない。けれど、そう答えてしまうと、私をどこかの令嬢と思い込んで話を続けられるのには参った。  そのたびに苦笑して否定する。久弥さんほどの人なら、それこそ事情がない限り私みたいな人間とは結婚はしないんだろうな。改めて思い知る。
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