第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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 十河社長の挨拶でパーティーは始まり、新規事業のプレゼンテーションが行われた。そのあと、十河社長と久志さんのもとに多くの人々が集まり、久弥さんは少しだけ手すきの状態になる。  久弥さんが飲み物を持ってきてくれたので素直に受け取る。搾りたてのオレンジの果汁の入ったノンアルコールカクテルは、上品であとを引かないすっきりとした味わいだ。 「来ている人たちはもちろん、サービスもお料理もすごいですね 」  これが一流の世界なんだな。喉を潤しながらしみじみ呟く。 「そうか? 瑠衣の作った料理の方がずっとうまい」  すかさず久弥さんから返され、目を見張る。お世辞だろうと思って彼を見たら、久弥さんは意外にも真面目な顔をしていた。 「いつもありがとう。感謝している」  律儀にお礼を言われ、胸の奥が熱くなる。完全な不意打ちだ。 「またスペシャルカレー、作りますね」 「あれは、やりすぎだろ」  わざとおどけて返したら予想通りの反応に笑う。この前のバレンタインの日、夕飯はハンバーグカレーにしたのだが、ニンジンをハート型にくり抜き、ご飯やハンバーグもハートにしてみたのだ。  甘いものがあまり好きではないと言っていたので、私なりにバレンタインに乗せて感謝の気持ちを伝えたかった。結果的に久弥さんは驚きつつペロリと完食してくれたので、自己満足とはいえ嬉しくなる。  バレンタインのプレゼントとしては、彼の好きなお酒を渡した。
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