第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

5/35
前へ
/193ページ
次へ
「あそこまでするのは、大変だったろ」  労われているのか、呆れられているのか。 「いえいえ。毎日でもないですし、イベントごとは楽しみたいタイプなので」  母は仕事が忙しくて大変だったが、誕生日やクリスマス、ひな祭りや子どもの日など行事を大事にしてくれた。特別感があって子ども心にワクワクした。  ひとりならきっと面倒だと思うけれど、こうして共有できる相手が今はいる。結果的に勝手に押しつけている形になっているけれど。 「なら、瑠衣の作ったカレーはまた食べたい」 「はい、喜んで」  久弥さんから素直にリクエストされて頷く。続けて、主要な人たちには挨拶できたから、パーティーは早めに切り上げてもかまわないと伝えられる。正直、ありがたい。 「久弥」  そのとき女性の声がして、私と久弥さんの意識はそちらに向いた。相手を確認し、目を見張る。  目鼻立ちがはっきりとした美人には、見覚えがあった。母の手術の帰りに久弥さんと歩いていた地女性だ。  あのときはスーツだったが、今は赤いマーメイドドレスを身にまとい、彼女の綺麗な体のラインが強調されている。大人の魅力にあふれていて、女性の私でも目を奪われた。 「よかった、会えて。探していたのよ。奥さまですか?」  突然彼女の視線がこちらに向き、背筋を正す。赤い口紅に彩られた唇が弧を描いた。 「初めまして、鎌田(かまだ)寧々(ねね)です。ご主人には仕事でいつもお世話になっております」 「初めまして、瑠衣と申します」  こちらも名乗ると、鎌田さんは微笑んだまま私を見つめてくる。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5592人が本棚に入れています
本棚に追加