第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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「彼が結婚するって聞いたときは驚いたんです。会長のご紹介だとか」 「ええ」  光子さんを会長と呼ぶということは、鎌田さんの仕事もTOGAコーポレーションと繋がりがあるのだろうか。たしか鎌田って……。 「彼女は鎌田建設の社長の孫娘で、そこの社員なんだ」  久弥さんに補足され、驚きと共に合点がいく。鎌田建設といえば大手ゼネコンのひとつで全国的に展開しているので、誰もがその名前を知っていた。 「そうなんですか」 「はい。そういう意味で彼とは似たような立場なので、いろいろと仕事以外でも話が合うんです」  久弥さんは過去形になるが、ふたりとも祖父が大きな会社の社長をしていて、いわゆる直系の孫でもあり後継者の立場にもなる。鎌田さんが光子さんを会長と呼ぶのも納得だ。  彼女は、光子さんと面識があるのかな?  どういうわけかいたたまれない気持ちに胸が押しつぶされそうになる。 「武村(たけむら)社長には挨拶した?」 「ああ、さっきお会いした」  そこから共通の知り合いについて話しだす久弥さんと鎌田さんに、少しだけこの場を抜けると伝える。人にも場所にも酔った。 「大丈夫か?」 「あ、はい。すみません。すぐに戻ってきますので」  久弥さんに告げ、鎌田さんに挨拶したあとドアの方へ向かう。ふと振り返り、遠目からふたりを見たら驚くほどお似合いで胸が軋んだ。  堂々と彼の隣に立って、笑顔で話す鎌田さんはとても魅力的だ。久弥さんと同じようにオーラが違う。同じ業界に身を置いていて、境遇も似ている彼女となら話題も尽きないだろう。
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